医療業界Q&A


Q 医師等の宿日直許可の裁判例を教えてください。

 奈良県立病院産科医師事件 (平成25年2月12日最高裁上告不受理決定により、平成22年11月16日大(平成25年2月12日最高裁上告不受理決定により、平成22年11月16日大阪高裁判決が確定)があります。

 この裁判例は、産科医の宿日直勤務について、通常の労働時間内勤務と同等の労働が行われており、断続的な労働(労 働基準法41条3号)に該当しないとして、休日・夜間の宿日直勤務全体が労働時間に当たるとされた事例です。

 本件原告の産科医2人は、平成16~17年に、210回・213回の宿日直勤務をこなし、1人は計56時間連 続して勤務したケースもあった。分娩件数の6割以上が宿日直時間帯で、約半数が異常分娩であった。

 宿日直勤務時間中に通常業務に従事した時間の割合は実際は1審原告らが主張する4割に近いもので あった。 

 産婦人科の当直医は、内規により、入院患者の正常分娩、異常分娩(手術を含む)及び分娩、手術を除 く処置全般、家族への説明、電話対応等の処置を行うべきことが予定・要請されていたのみならず、病 院に搬送される周産期患者に対して適切な処置を行うべきことが、当然予定・要請されていた。

 大阪高裁判決は、まず、「病室の定時巡回、少数の要注意患者の定時検脈など、軽度又は短時間の業務のみが行われている場合には、労働基準法41条3号の断続的業務たる宿日直として取り扱い、病院の医師等が行う付随的日 直業務を許可してきたこと」等の労働行政の扱いは、医療機関における宿日直勤務が労基法41条3号 の断続的業務に当たるかどうかを判断する基準として相当なものといえるとされました。

 しかしながら、本件の宿日直勤務については、通常の労働に従事させるなど、許可した業務の態様と異なる勤務に従事させないこと等の条件のもとに、労働基準監督署長から許可を受けていたものの、当該許可は、「本来、取り消されるべきものであった」とされました(労働基準監督署は平成22年5月産婦人科医の宿日直勤務は違法 な時間外労働に当たる上、割増賃金も支払っていないとして、病院を運営する奈良県を労働基準法違反 容疑で検察庁に書類送検されています。)。

  上記の産婦人科の当直医の各処置は、いずれも産婦人科医としての通常業務そのものというべきであり、産婦人科当直医の宿日直勤務は、労働密度が薄く、精神的肉体的負担も小さい病室の定時巡回、少数の要注意患者の定時検脈な ど、軽度又は短時間の業務であるなどとは到底いえない、とされました。

  これらを踏まえ、「宿日直勤務が、労働基準法41条3号所定の断続的労働であるとは認められず、上 記勤務は1審被告(病院長)の業務命令に基づく宿日直業務であり、その全体について1審被告(病院 長)の指揮命令下にある労働基準法上の労働時間というべきであるから、1審被告は、1審原告らに対 し、その従事した宿日直勤務時間の全部について、労働基準法37条1項が定める割増賃金を支払う義務がある」とされました。